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執筆者の写真Yugo Ikeda

幾何学的形態測定法 ②標本写真編

第2回目となる今回は,幾何学的形態測定法に用いる標本写真を撮影する”コツ”について解説します.


・標本写真の必要条件

当該手法で用いる写真に最低限含めなければいけない要素は3つあります.


1.研究する標本(これがないとはじまりません)

2.スケール(サイズの指標として必要です)

3.標本番号(標本に関する情報を照合するために必要です)


スケールは工業用の精密なものを使いましょう.私はシンワの15cmスケール(品番13501)を使用しています.

写真からはわかりづらいですが,ピントが合う標本の面の位置とスケールの位置がなるべく同じ高さになるように調製してください.スケールを台座に平置きしてしまうと,目盛の間隔が小さくなりサイズを過大評価してしまうことにつながります.標本とスケールのどちらにもピントが合っているのが理想です.


・撮影環境

上述のような写真が撮れれば問題ありませんが,私の撮影環境を紹介します.

カメラスタンド:カメラの位置を固定するのに使います.

カメラ:スペックは問いません.

マクロレンズ:写真の歪み(歪曲収差)を減らすために単焦点レンズを使います.焦点距離は標本のサイズに合わせて変えます.私は小型哺乳類の頭骨を撮影することが多いので,100mmまたは50mmのマクロを良く使います.

ライト:後で解説しますが,標本をよりくっきりと鮮明にとるためには強い光源を確保する必要があります.光源から出る熱は標本に悪影響を与えるため,LEDなどの発熱が少ない光源を用いましょう.

アクリルキューブ:標本の裏面からも光が当てることができます.下面に青や黒の下地を張ることで,標本の境界を鮮明に撮影できます.また,方眼格子を張れば写真が歪んでないか確認することもできます.

水平器:カメラと土台を水平にするために必要です.レンズ面と土台が平行でないと標本の角度を一定に撮影することができません.

USBケーブル:カメラとPCを接続するために使います.私はPCのカメラ制御アプリを利用して,撮影した写真をその場でPCに送り,SSDやクラウド上に送ります.PCがない場合はレリーズをつけて,カメラのシャッターボタンを押さないようにしましょう(ブレを抑えるため).


標本の撮影は大学などの研究機関や博物館の収蔵庫で行うことが多く,それぞれ環境が違います.場所によってはカメラスタンドやライトがある場合もありますが,すべて自前で持っていけるのが理想です.


・撮影時のカメラ設定

次に撮影時の設定について解説します.

以下は私がカメラを操作してる「digiCamControl」というアプリの画面です.

モード:M(マニュアル).設定やピントをすべて手動で設定します.

ISO感度:高くするほど明るく撮影できますが,ノイズが多くなります.標識点を打つうえで必要な形態部位が鮮明に見えるように,十分な光源が用意できる場合はなるべく低くしましょう.

シャッタースピード:遅くするほど明るく撮影できますが,ブレたりボケたりします.ISOと同じで,なるべく早くしましょう.

F値:高くするほどピントが合う深さが広がり,全体にピントが合うようになりますが,画質は低くなります.今回は標本がくっきり映ればよいので,標本全体がくっきりと映る最低のF値を設定しましょう.凹凸が少ない場合はF値は低く,頭骨のように凹凸が多い場合はF値は高くなるはずです.

ホワイトバランス:オート,もしくはデフォルトにします.


最初にいくつか写真を撮影して,良い写真が取れたら設定をメモしておきましょう.撮影する標本ごとに設定をいじるのはオススメしません(時間もかかるし映り方も変わってしまいます).

また,画角の端の方は歪みが大きくなるので,画角いっぱいに標本を入れるのではなく,中央部に収めましょう.


・標本を固定する際のコツ

最後に標本を土台に置く時のコツを紹介します.


例えば頭骨で幾何学的形態測定法を実施するとき,側面(lateral),背面(dorsal),腹面(ventral)からそれぞれ撮影します.

この時,プロクラステス解析で補正できない変位(縦と横のズレ),回転,拡大・縮小以外のズレが生じると解析に影響が出てきます.それは,標本の向きや角度です.

そのため,カメラのレンズ面から見た際の前後左右の傾きをできる限り一定にしなければいけません.


傾きを調整するには,標本の特徴を撮影前にある程度把握して,自分の中で傾きを一定にするための目安となる形態的特徴を見つけておくといいでしょう.


私が頭骨を撮影する際は,正中線にあたる矢状陵と,左右1対ずつある乳様突起や蝸牛骨の位置(左右対称性が前提ですが...),歯根部などを基準にして,台座およびレンズ面と平行になるように調節しています.標本の固定には,ねりけしや粘土などを使うとよいでしょう(粘土などに含まれる油分は標本のコンディションを悪化させるので,絶対に残さないように!).


撮影した標本写真は,

「標本番号_向き」で名前を付けておくと整理しやすいのでオススメです.標本に関する情報はexcelで別途管理し,標本番号で紐づけましょう.


例1:KUZM11894_D = KUZM(京大博のアクロニム)118894番の背面(Dorsal)写真

例2:HNHM54.84.1_V =HNHM(ハンガリー国立自然史博物館のアクロニム)54.84.1の腹面(Ventral)写真


名前を付けるときは,ひらがなや漢字は使わずに半角のアルファベットと数字のみにしましょう.後の解析時にソフトウェアがうまく動かない原因になります.写真を格納するフォルダ名も同様です.


・最後に

今回は幾何学的形態測定法で使用する標本写真の撮り方や,私が実際に撮影する上で気を付けている点について紹介しました.いくつも標本写真を撮っていく中で自分なりのコツを掴んでいくと思うので,どんどん撮影していきましょう!


幾何学的形態測定法の一つのメリットは,出張先の博物館や研究施設などですることが写真撮影だけという点があります.写真データさえ無事に研究室まで持って帰れば,後の解析は自分のデスクで自分のペースで進めることができます.


次回③ランドマーク編では,撮影した標本写真にソフトウェアを使ってランドマークを設定する方法と,ランドマークを定義する上での注意点等について解説します.

質問やご指南等ございましたら,コメント欄やわたしのメールアドレスにお願いします.

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