・はじめに
今回から4回に分けて,幾何学的形態測定法(Geometric Morphometrics)について解説していきます.
わたしが当該手法を学んだ修士学生の時に「この記事があればよかったな」というようなものを目指します.また,当該手法は現在でも発展が目まぐるしく,解析手法も日々変わっており,3Dモデルを用いた三次元への応用もされています.今後,国内の研究でも増加すると考えられるので,自身の覚書も含めて僭越ながら解説させていただきたいと思います.
第1回目は,幾何学的形態測定法の基本的な原理や,有効な場面などについて解説します.
②標本写真編,③ランドマーク編,④形態解析編と続いていく予定です.
また,「三次元幾何学的形態測定法」についても,後に解説できればと思います(現在準備している論文がパブリッシュされたら記事書きます...).
・幾何学的形態測定法の基本的な仕組み
幾何学的形態測定法(Geometric Morphometrics)とは,形態を”大きさ(size)”と”かたち(shape)”に分けて解析する方法です.
例えば,ものさしで下の2つの台形の高さを測ると,それぞれ長さは違いますが(a≠b),かたちは同じ(相似)です.
また,次の複数の台形もすべてかたちは同じです.
これらの台形は,変位(縦と横のズレ),回転,拡大・縮小により補正することで,いずれも同じかたちになります.幾何学的形態測定法では,「プロクラステス解析」でこの補正を行い,大きさ(重心サイズ:centroid size)とかたち(プロクラステス距離:Procrustes distance)を分けて解析します.
・幾何学的形態測定法の使い時
幾何学的形態測定法が有効な場面は,長さの計測では分かりづらい”違い”を見つけたいときです.つまり,長さが図りづらい歯の凹凸だったり,直線では表せない曲線状だったりは,当該手法が威力を発揮できる場面となります.
また,「なんか違うけどうまく言い表せない」,「どこか違うはずなんだけど見当がつかない」ときにも有効です.
幾何学的形態測定法では標識点(landmarks)を定義することで,各標識点の補正後の座標(x,y)が,標本間あるいはグループ間でどのように違うかを解析します.
以下の図は標識点の例です.
かたちが安定している貝ガラや角,骨,甲殻などの解析に最適です.標本間でかたちが大きく変わってしまう軟体部には不向きですが,軟体部のかたちを安定させる固定方法や,標本数を多くすることでこのばらつきを小さくすることができます.
言い表せない違いを言語化したり,相関分析により機能的な形態を見出したりと,あらゆる応用ができる解析手法です.
・幾何学的形態測定法のリンク集
最後に,わたしが幾何学的形態測定法を学んだ際に参考にさせていただいたウェブサイトのリンクを紹介します.みなさんもぜひ参考にしてみてください.
・http://tetsumi.raindrop.jp/Landmarks.html 高橋鉄美さんが大変分かりやすく解説しておられます(こちらを見ていただければ正直わたしの解説は不要です...).わたしが修士学生のころは,日本語で当該手法を解説した記事が少なく,大変参考にさせていただきました.
・https://www.sbmorphometrics.org/ SB morphometrics:ランドマークを打つためのソフトウェアがインストールできます.詳細は③ランドマーク編で解説します.
・https://note.com/sakananotegami/n/n594aea302e08 修士時代の同僚が作成した覚書です.細かいことはいいから,とにかく幾何学的形態測定法を試してみたい!という方に最適です(形態解析で用いているmorphoJは古い解析手法に基づいているため,論文化する際にrejectされる可能性がある点にご注意ください).
・YouTubeにたくさん(ほとんど英語."Geometric Morphometrics"で検索!)
次回②標本写真編では,幾何学的形態測定法で用いる標本写真を撮影する上での”コツ”について解説します.
質問やご指南等ございましたら,コメント欄やわたしのメールアドレスにお願いします.
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